トトヤンの家庭菜園

小旅行、読書、TV番組感想、政治への関心、家庭菜園のブログです。(和歌山県)

コロナ経済対策

 

森信 茂樹(もりのぶ・しげき)✖ 飯田康之(いいだやすゆき)


新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済対策をめぐって、一部の国会議員が「消費減税を実施すべきだ」と声をあげている。一方、政府は、所得が大幅に減少した世帯への現金支給を検討している。中央大学法科大学院の森信茂樹特任教授は、「政府の方針は正しい。消費減税は高所得者ほど得をする仕組みで、経済対策としては望ましくない」という――。


まずは、森信 茂樹さんの

 

コロナショックに「消費減税」をしてはいけない4つの理由 から

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コロナショックに「消費減税」をしてはいけない4つの理由


新型コロナウイルスの世界経済に与える被害は、未曽有のものになりそうだ。わが国では、インバウンドの落ち込みやイベント自粛などで被害を受けているホテル・小売店をはじめとした中小企業への緊急融資・支援や、臨時休校で休まざるを得ない子育て世帯、さらには休業補償のない個人事業者(フリーランスなど)への支援などを、早急に対応していく必要がある。

そして一段落したところでの本格的な経済対策となるのだが、内容を早急に決定し実行に移していく必要がある。規模は、リーマンショック時よりはるかに大きな規模とならざるを得ない。

経済対策として、自民党の若手有志による議員連盟「日本の未来を考える勉強会」などは消費減税を提唱している。しかし、対策の緊急性、消費に与えるインパクト(経済効果)から考えれば、消費税減税より給付金で対応する方が、はるかに効果がある。

消費税をひとたび減税すると、引き上げる時期を巡って政局になり、無駄な政治駆け引きやエネルギーが浪費される。消費税率の5%から10%への引き上げが、法律の成立した2012年8月から19年10月まで2度の延期とそのたびの選挙で、合計7年の年月を要したことは記憶に新しい。将来につけを回すような対応ではなく、最大限の経済効果を発揮する対策に限定すべきだ。

安倍首相は3月28日の記者会見で、経済減速の影響を受ける個人や中小企業に現金を給付する方針を明らかにしており、これは評価できる。

第1に、即効性の問題である。消費税を減税するには、経過措置の規定など多くの改正法案作成作業が必要となる。補正予算を組むだけで対応できる給付金と比べて、はるかに時間を要する。また事業者の経理システムの改修、タクシーなどの認可制料金や郵便料金のような公共料金、診療報酬や介護報酬などを再設定する必要があるので、準備に少なくとも3カ月以上を費やすことになるという問題がある。

第2に、減税までの消費の手控え、元に戻す際の駆け込みなど、余分な経済変動、不安定化が生じる。

第3に、新型コロナ問題が広がる中で、経済的な被害の少ない方がおられる。例えばIT事業などを行っている高所得者、大企業正社員、公務員、年金生活者など、所得に関する限りほとんど打撃がないと思われるが、消費減税をすれば、彼らにも恩恵が及ぶ。

一般に消費税は逆進性があり、低所得者には負担がきついといわれるが、それは所得に対する消費税負担の割合のことを言っている。しかし消費税は消費額に対して比例的にかかるので、高所得者が車やマンションなどの高額商品を買えば、金額ベースの負担額は大きい。

逆に言えば、今回消費税を5%引き下げるという手段をとった場合には、車やマンションなど高額商品を買う高所得者ほど減税額が大きくなる。つまり消費税減税は、お金持ちほど優遇されるということになる。これは財政資金の使い方としていかにも無駄といえよう。したがって、そのような効果をもたらす消費税減税という選択肢はとるべきではない。後述するような、生活困窮者への助成に集中的に回すことができる対策手段を講じるべきだ。

給付金は生活困窮者に手厚く配布を

最後に、消費税の持つわが国における政策的な意義である。消費税は、全世代型社会保障の切り札で、とりわけ幼児教育・保育の無償化など、わが国の働き方改革少子化対策を進めていくための貴重な財源となっており、すでに使われ始めている。

一方、新型コロナウイルス騒ぎは、時間はかかるかもしれないが、必ず収束する。そうであるなら、消費税減税のように、わが国の中長期的な政策と矛盾し、将来に大きな禍根を残すことになるような政策はとるべきではない。

筆者は、消費税減税より給付金が即効性があり、対策として有効だと考える。しかし国民全員にばらまくのではなく、高所得者・世帯や年金生活者を除くなどして、その分生活困窮者に手厚く配布することが必要と考えている。

09年のリーマンショック後に麻生内閣の下で行われた国民全員への定額給付金(1万2000円)については、全体として消費を喚起する効果が弱かったという事後検証が行われている。その最大の理由は、高所得者など対策の不要な者にも配ったため、貯蓄に回ったことだ。

今回はそのような無駄は排除すべきで、そのためには、マイナンバーを活用して所得情報(税務情報)と社会保障情報を一体的に運営するシステムの構築を、デジタルガバメント化の一環として行う必要がある。

マイナンバーでピンポイントな給付が可能になる

今回の騒ぎで、医療分野のオンライン診療の普及、教育分野における遠隔教育システムの整備などが進んでいくと予想されるが、マイナンバーを活用して税務情報を社会保障情報と連携させ、新たな国民のセーフティーネットを構築することも、デジタルガバメントの重要な政策だ。

これには時間がかかるという反論があるかもしれないが、2014年4月の消費税5%から8%への引き上げ時には、住民税非課税世帯に一人当たり1万5000円を給付した。その際自治体には、給付のためのシステムが整備されている。

今回は、これを基に、「住民税非課税かどうか」で線を引くのではなく、マイナンバーを活用して「一定の所得基準(例えば世帯所得700万円以下)」で線を引けばよい。そのためのシステムの改修費用は国が負担する。間に合わなければ、国が制度設計して地方自治体で執行(給付事務)を行うような措置も検討すべきだ。

これにより、例えば1‐3月の段階で前年より所得が大きく減少したフリーランス個人事業主、雇い止めや解雇にあった給与所得者などを把握して手厚く給付することも可能になる。一方で、国・地方公務員や大企業正社員、さらには年金生活者など被害の少ない者は給付の制限・排除をすることもできる。

米国でも、欧州諸国でも、番号により国民全員の税情報(課税所得)と社会保障給付が連携され、有機的に活用するシステムが構築されている。英国が20日に打ち出したフリーランスの所得補償は、この制度(ユニバーサル・クレジット)を活用して緊急的に行われる。

この機会にわが国もデジタルガバメント化を進め、新たな国民のセーフティーネットを設けるべきだ。今後またやってくる可能性の高い危機への対応にもなる。

 


森信 茂樹(もりのぶ・しげき)

東京財団政策研究所研究主幹

 

 

つぎには、

けっこう自分の気に入っている、マクロ経済学者の

飯田康之さんの

 

コロナショック、日本の「経済対策」に

決定的に足りていないこと


ごく短い期間に需要が半減またはそれ以上に悪化していることで、既存の措置、政府が急ぎ実施した措置の周知が不十分な状況にある。

例えば、SNSなどでは「ヨーロッパではコロナショックによる休業に対して賃金の6割を補償している(のに日本政府は何をしているんだ)」といった批判は多い。また、筆者が出演するラジオ番組でも観光関連企業で働くリスナーから「ほとんど仕事がなく、休業が多いため給料が半減した」との声をいただいた。


しかし、我が国では以前より休業補償の仕組みとして雇用調整助成金制度が存在し、今次のショックを受けてその要件は大幅に緩和されている。これにより、月の生産・売上が10%減少していても解雇等を実施していないならば、大企業で休業手当の75%、中小企業で90%が助成されるようになった(4月1日現在)。

教育・訓練を指示することで事実上の補助率はさらに高めることができる。パート・非正規雇用等の雇用保険に加入していない労働者も対象となっている点も重要だ。制度詳細は厚生労働省web page等を参照いただきたい。

また、喫緊の資金需要――売上等が急減しても待ってくれない家賃・借入等の支払いに対応するための融資制度が提供されている。例えば、日本政策金融公庫・商工中金等は月の売上等が5%以上減少している事業者を対象に数億円規模まで金利優遇措置つきの無担保貸付制度を提供している。


さらに、フリーランスの場合には制限無く、小規模事業については月売上の15%以上減少した場合には「利子補給制度」を利用できるため3年間は事実上の無利子融資となる(いずれも3月31日現在)。制度の詳細は経済産業省web pageを参照いただきい。

融資に限らず、税納付の猶予等についても同ページや国税庁web pageに記載されている。個人・家計向けの生活資金融資は20万円程度とまだまだ少額にすぎるが、所得制限等が撤廃されているため検討に値するという家計もあるだろう
この他にも、新設・条件緩和された支援プログラムは非常に多い。この多さ、細かさによるわかりにくさのみならず、まだまだ改善の余地があるが、すでに提示されているメニューが多いことも心得ておきたいところだ。

感染拡大が収束していない状況で何よりも優先されるのは「広義のストック」の毀損を防ぐことにある。経済における広義のストック・財産とは無意識的な業務効率化の工夫、取引相手との信頼、従業員同士のコミュニケーションなどいずれも形のないものばかりだ。

大小を問わず、事業は無機的な存在ではない。ある企業が一時的なショックによって倒産・廃業したとき。後に実質的に同じオフィスや機械設備を準備できたとしても(それ自体困難だろうが)、同じ会社を作ることは出来ない。

現在、顧客急減の最前線にたっている飲食サービス業も同じだ。小規模な居酒屋・スナック・クラブ等は店主・従業員・常連客の不思議な均衡によって成立している。ひとたび失われた生態系をそのままの形で回復することは出来ない。個人事業・フリーランスについても取引先等との長期的関係が競争力や効率の源泉となっている例は多い。

これらの(会計上の定義とは異なる)無形資産が維持されているならば、その後の十分な景気対策次第で、危機の後には従前と変わりない経済活動を復活させることが出来る。自然災害とは異なり、今次のショックによって物理的なストックが失われたわけではない。

 


 
そもそも制度が知られていない

目に見えない、会計的に捉えられないストックを守る必要性について、政府・与党も意識的ではあるようだ。一方で、冒頭紹介したように制度自体の存在が知られていない、または制度が利用されず実際に給与の大幅減が生じているのはなぜであろう。さらに、はや廃業を決めた小規模事業の話を聞くことが増えてきた。

制度がうまく機能していない理由について、ここでは3つのレベルに分けて説明したい。先に示しておけば、1.広報の拙さ、2.必ず存在する制度からの「漏れ」、3.将来の経済政策方針へのコミットメント不足である。


第一が広報活動の問題だ。伝統的な中小事業とは異なり、新たな業態の企業・個人事業主には商工会や商店会などを通じた既存の周知手段による情報は届きにくい。

そもそも、現下で感染拡大防止の最前線でもある東京都では、これらの組織・連合に所属しない企業・事業の割合が高い。加えて、バー・クラブ等の料飲関連業種ではこれまで様々な補助・支援制度と無縁なまま経営が行われてきた店が多い。そのため、行政的な支援の窓口・利用方法に不案内なケースもあるだろう。

 


これらの問題を改善するために、新聞・テレビ・ラジオ等の従来型のメディアを用いた広報の拡大は欠かせない。(それほどわかっていることが多いわけではない、つまりはわずかな)医療・疫学的情報を繰り返し放送することよりも、今、受けることのできる支援や経営継続の手法を周知することにも報道・放送というリソースを割くべきだろう。

また、各社が取引先の小事業主への情報提供、税理士会を通じた広報などを拡充することも望まれる。経営者だけではなく従業員・その家族が制度の存在を知ることで、雇用関連の助成申請を従業員側から要求・提案できるようになるといった流れが期待できる。
もっとも、問題の中心は広報にあるわけではない。これらの制度を知っていても、利用しない企業・事業主も少なくない。なぜ融資・猶予の制度があるにもかかわらず、休業よりも廃業や解雇、給与引き下げが選択されるのだろう。

特別融資や雇用調整助成金の給付には時間がかかる。平常時であれば、これらの融資実行には2ヵ月は必要である。その2ヵ月が待てない、それまでの賃金支払いを節約する必要があるという事業主はこれらの対策措置を利用しない(またはできない)。
関連部署の努力により、その実施期間は徐々に短縮されつつある。仮払い・見込み払いを行い、1年後に過不足を調整するなどより柔軟な対応が求められる。

加えて、いかに入念に制度を設計しても、いかに支援のプログラム数を増やしても、いずれの制度支援の枠組みにも「はまらない」家計・企業は残る。現在の急務はストックの毀損を防ぐこと。これは時間との戦いだ。入念な制度設計よりも、素早いメニュー提示が求められる。だからこそ、なおさらに「どの制度でも救済されない」対象への支援方法を模索する必要がある。

この問題の解決策のひとつが一律給付金の支給である。コロナショックへの対応を巡って一律給付金の支給が議論に上ったが、少なからぬ議論が一律給付金の機能・役割を誤解している向きがある。典型的なものは麻生太郎財務大臣

「一律(給付)でやった場合、現金でやった場合は、それが貯金に回らず投資に回る保証は? 例えば、まあ色々な形で何か買ったら(一定割合や金額を)引きますとか、商品券とかいうものは貯金には(お金が)あまりいかないんだよね。」(3月24日記者会見)

「(緊急経済対策の現金給付は)必要なところにまとめて(給付する)という方が、より効果がある」(4月1日参院決済委員会答弁)

感染拡大防止時点で急ぎ行われる現金一律給付の目的は消費刺激ではない。現金一律給付の最大のメリットは、制度では把握しきれない多様な資金決済が滞ることが無いようにすることである。

20万円程度の最低限の金額であっても、無差別一律に給付を行うことで、決済の滞りによるさしあたっての問題を防ぐことが可能になる。例えば、低所得ではないが家庭等の事情で現時点で家賃滞納がある家計もあるだろう。このような家計が借家から退去を余儀なくされるケースなどを想起されたい。

平時においてすら、どんなに配慮・検討を重ねても制度ではカバーできない資金需要がある。ましてや、今はこのような配慮・検討にかける時間が惜しい状況だ。とにかく現金を一律に配ることで満たされる資金需要がある。

 


ちなみに、現金ではなく商品券のほうが消費を喚起するといった議論も見られたが、消費刺激策としても、商品券と現金給付で消費刺激の効果に違いがあるという研究はほとんど見かけたことがない。

過去の地域振興券リーマンショック時の家計消費の増減を見ても両者に有意な違いはない。

全員一律での現金支給実施への批判として、一律支給が事務手続き上困難であるという議論もある。しかし、これらの技術論もまた、「唯一の手法・経路で全員をカバーする必要がある」という思い込み(つまり、一つの方法・経路で現金を配らなければならないという思い込み)に囚われている。

唯一の方法で全員に支給するのではなく、複数の方法で事実上の全員支給が行われればよいのだ。

住民基本台帳等に基づく小切手の郵送をはじめ、源泉徴収を行う企業を経由した手法、確定申告時の登録口座を使う方法など日本国民のほとんどをカバー可能な手法は複数存在する。また、社会保険料の一定期間の免除であれば家計・企業双方への直接給付にもなる。

これらの制度に漏れた場合に自己申告で受け取る方法を用意すれば事実上の一律給付は困難なものではない。また、高所得者優遇であるという批判があるならば、来年または再来年の年末調整・確定申告時に調整すれば良いだろう。

 


将来への悲観

緊急プログラムの活用が進まない理由はこればかりではない。最大の問題は収束時期と収束後の日本経済・世界経済に関する悲観的な観測である。多くの無利子・無担保融資に代表されるように、現在示されている一種の「緊急避難措置」は多くが「融資」のスキームになっている。融資(=借入)はいつか返済しなければならない。

これだけ日本経済・世界経済が打撃を受けているようなイメージが広がるなか、返済開始時点で十分な売上・収入があるかに不安があるという人は少なくないはずだ。そうした場合、融資を中心とした支援策に二の足を踏むという反応は合理的なものであろう。


ある程度整備された融資型の支援策が十分な機能を発揮するためには、1)今後の経済状況次第では返済免除や返済猶予が検討されること、2)一定の収束後には大幅な景気刺激策がとられることを十分に伝える必要がある。それも、より具体的な方法・総額等を明示することで「今をしのげば、また以前のようなビジネスが出来る」という予想・期待を強化していかなければならない。制度的な詳細を後回しにしてでも、その大枠を示すことを政治は優先すべきだ。

先週末に行われた「緊急記者会見」はどのような意味で「緊急」なのかがいぶかられるほど抽象的なものであった。いまこそ「将来期待に働きかける」ことで「現時点の施策の実効性を高める」ための「具体的なコミットメント」が求められている。

 

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