『太田昌克の視点』情報インサイドOUT
首相官邸幹部が「私は核を持つべきだと思っている」と記者団に言明した。個人的見解とはいえ、場合によっては国益を損なう不用意発言なのではないかと私は見ている。
たとえば自民党内からは「非核三原則を堅持する政府方針に反する発言だ」(閣僚経験者)、「中国に(つけ込まれる)余計な材料を与えてしまった」(別の閣僚経験者)という批判的な声も聞こえてくる。高市首相は発言の背景と真意に加え、国会決議で確認されてきた国是を全面否定するこの幹部の意見表明をどう受け止めているのか、自身の認識と政治姿勢を国民に説明すべきだ。
この発言がなぜ国益を損なうのかと言えば、まず日米同盟の土台を掘り崩しかねないからである。日本が国防のために米国の抑止力に依存してきたことは客観的史実で、その根幹に「核の傘」があるというのが政府の基本認識だ。
核の傘の前提には、日本が核武装をせず核拡散防止条約(NPT)に非核保有国として加盟するという日米の「取引」がある。この点は、1975年の三木武夫首相とフォード米大統領の共同新聞発表にも明記されている。
また、自国第一のトランプ米大統領がこうした発言を聞いて何を思うか。「核武装したければすればよい。その方が米国に安上がりだ」と考えるなら、日本防衛への米国のコミットメントが著しく後退しかねない。
さらに、日本が最も重視してきた核拡散防止条約(NPT)体制に打撃を与えかねない。日本政府は被爆体験を踏まえ、米国の傘の下にいながらも、核軍縮・不拡散の礎石であるNPTを基軸に、核廃絶を目指す道筋を志向してきた。
今回の発言はNPT体制の否定につながり、被爆国の外交的権威と道義を失墜させるリスクをはらんでいる。

