オルテガ⑵
「ロシアとNATO加盟諸国の今後の趨勢の影響もあってか緊張状態が。平穏なそれまでのバルト三国もやや不安気味。自由な経済活動を望んでロンドンに暮らし始めるロシア人も中には。資産凍結の制裁もあって大変な状況でもあるだろう。社会不安をひきおこしている十分な用心をな」
そんなことをブログに載せれば怪しまれるだけではないか。言ったあいつの厳しい眼差し。
はるかかなたのカルメラ星から、この地球にたどりついた同志の眼なのだ。
多少、地球人になりきるのに疲れの出始めていた彼だ。「君から教えられた日本の歌謡曲。歌詞をかみしめて耳を澄ませて聴いてみると元気が出てきた、言うところのよさにも気付いてね。」それはスマップのトライアングルという比較的新しい曲のことだ。
「そうかい。気に入ってくれたかい」歌詞が良かったので励ます意味でロンドンの彼にも勧めてみたのだ。俺たちの目的はカルメラ星の遺伝子を残すこと。彼はロンドン、自分はというと日本に舞い降りた。旅立つときにはそのような国名を知る由もなく、むこうでの呼び名は別だった。
地球にたどり着いてからはお互い、交信を交わすことは禁じられてもいた。交わすときは必ずカルメラ星を経由すること。まるでゾルゲスパイ団もどき。カルメラの遺伝子の特性はたどりついたその国のアイデンティティをも吸収してしまうということなのだ。
「君はホームシックにならないんだね」それはカルメラ星に置いてきた妻子のことなのか。俺のほうはもうカルメラ星の消滅をもって一応の気持ちの整理はつけてしまっている。
もう経由すべき故里の星もないのだから。今はこうして自由に彼とひざ突き合わせてもいる。
「ケネディの時代が懐かしいの声を聞くよ。」それはわかるのだ。自由主義国の盟主として多くの民衆に親しまれてもいたケネディ大統領が突然に亡くなったときはそれはそれは大勢の慟哭の民で埋め尽くされるほどだった。衛星中継の始まり同時進行に見てきてその弔問外交から地球上にはこれだけの沢山の国があることで驚きもした。その後に中東のいたるところで戦火は絶えない。カルメラ星は2カ国だけだった。
ある国の首相なんか、バイの会談と横文字でへらへらニタニタ簡単に言ってくれるけれど、二国間の交渉ってそう簡単ではないのだ。カルメラ星でいやというほど経験している。あのときはいっぽうの北半球の冷害で片方の国の食料が全くできなくなってしまったのだ。それを切っ掛けに世界政府に移行したのだった。ひやりとする事態もいっときは。それは略奪が近く起こるだののデマや噂だった。
食料の枯渇は生存の危機に直結する問題。武器以上に食料が交渉事にも使われ始めていた。だがあのときは、カルメラ星はじまって以来、両首脳が粘り強く智慧をだしあって冷静に対処したうえの結果だった。
「ところで教えてくれたあの歌詞にはとてもメッセージ性を感じている。」「わかるよ、ここんところだろ、(遠い空に 誰かが祈っていたり)(僕の肌 キミの母 僕らの愛は蒼く浮かぶ ちっぽけな惑星に 舞い降りた奇蹟)(わずかな苦しみも知らぬまま 後に生まれ 生きる僕ら受け継ごうその想い 声の限りに伝えるんだ)
スマップの歌声(大国の英雄や 戦火の少女それぞれ重さの同じ 尊ぶべき生命だから精悍な顔つきで 構えた銃は他でもなく 僕らの心に突きつけられている)」「そう、このフレーズを何度もくちづさむうちにこの地球にたどり着いた初期の目的を再確認している自分がいるんだ。まさしく、ちっぽけな惑星に舞い降りた奇蹟をね。」
「君は地球にたどり着いたということに特に意味を感じている。そこが日本国ということで」「ああ、そのとおりだ」
「でもオバマ大統領の核廃絶へむけてのプラハ演説のとき、日本の明確な主張も、聞けなかったんだよな。」
「でも今ではそんなことはたいしたことではないんだ。」「ふーん」
「君に教えたこの歌詞のように、そうさ(無口な祖父の想いが父へと 時代を跨ぎ)というそこのところに気付かされる。そもそもの俺たちの目的はカルメラ星の非戦、平和の遺伝子を残すというところにもどってくるんだ。
俺も舞い降りた当初はこの国を低く見るというか自分の惑星と比べてみてもみくびっていたところもあったんだ。何故かって、そりゃ、君にも指摘されたとおり、日本での不幸といえば、幼児虐待や、高齢者をねらったオレオレ詐欺。そんな事件ばかりだからね。民度に疑問附もあった。中東と違って弱いものがさらに弱いものを襲う。まさに形を変えた経済テロじゃないか醜悪だねと君が言っていただろ。
ところがシリア、アフガニスタンでの騒動が起こりだしてから丹念にくまなく地球上の歴史にも関心を寄せてから、それから日本のよさも認識することになったんだ。キャプテン翼とか日本のアニメだよ。アニメ文化に癒され、希望を無くすことなく、その後を、歩み出したという人生は数知れず。さかのぼれは
西欧列強と角突き合わせてキューバを盾にした当時のソ連、今のロシア。ときのフルシユチヨフ。ケネディとの米ソ首脳のホットライン。阿吽の呼吸で危機は回避されたんだよな。キューバのカストロは西側にとってもコワモテの相手だった。
今でいうところのゼレンスキー。
立場は逆で、東側から狙われる存在。
カストロの場合は西側から嫌われる存在。
その時のことも思い出している。
自由主義陣営からみればケネディという男に白羽の矢があつまっただろう、理由はその彼の一挙手一投足が、核時代の第三次世界大戦の火種を消すか消さないかの分かれ目でもあったからだ。太平洋戦争の頃には一兵士として軍務にも就いている。
日本占領した側のアメリカのその力のある大統領、平和への執念に日本国民もすっかり魅了されてしまうのだ。こうしてキューバ危機は彼の平和への執念もあってか、好転していく。その後にダラスで暗殺されることもなければその後に続く冷戦を縮めれたかもしれない人物。
彼は悲観することはなかった。未来に希望を持つ勇気を信じていた。
『汝が国に何かをしてもらおうと考えるまえに、汝が何をもって国に貢献できるかを問え
』大統領就任時の彼のスピーチ。」
「カルメラ星人が、地球人の政治家の影響を受けているってか?おかしいぜ。君はいつから主義者に?」
「俺はナショナリストになったわけでもないよ。今は20世紀の哲人スペインのオルテガの言葉を聴いている。」大衆ではないなにか卓越したものに奉仕するように生をつくりあげるのでなければかれにとって生は味気ない。高貴さは権利によってではなく自己への要求と義務によって定義されるものというそれだ。
カルメラ星でもそうだったじゃないか前世代達の英断の数々を俺達は見てきている。
カルメラ星、消滅までのごく前の話。消滅は想定内のこと。時計の針は生物学的死が近づいてきたようなものに過ぎなかった。大事な因子を残そうと、そして、そのタネを植える畑としての探索が続いた。私達は地球という惑星を知らされ使命を告げられた。
俺達がなぜ選ばれたかって。そりゃ、その話の可能性を信じたのが俺達だけだったからさ。
カルメラ星での高貴ある解決の歴史をこの惑星でも活かさんと。俺はスマップの曲に次いで、哲学ではオルテガに執着しているんだ。オルテガは決して歴史の絶対的な予定説を信じなかった。短絡的な発展史観などは信じなかった。(わたしは逆に、あらゆる生、したがって歴史的生は、純粋な刹那によって構成されているものであり、その一瞬一瞬はそれに先行する一瞬に対して相対的に未確定であるために、現実はその一瞬において逡巡し、-カ所で足踏みし、多くの可能性の中のどれに決めるべきかに迷うものであると信じている。この哲学的逡巡こそが、あらゆる生的なものに、まごう方なき不安と戦慄を与えている)と。
「この哲学的逡巡とは、優柔不断とは似て非なるものだと思うんだ。」(まごう
方なき不安と戦慄)の緊張感の中から(善)を探り当てる力の源泉。カルメラ星での数々の成功がそうだったじゃないか。経済の悲観的な観測に左右されたり、ペシミスティック、ニヒリスティックな心象風景が続いていても、かの惑星同様この惑星でも達成は可能だと。「俺はケネディが人間本来の善性を愛し信じたように究極の可能性を改めて信じてみるよ。働きかけを、成せることを、出来ることからはじめた上でね。」
「戦争犯罪、虐殺、許せない」
「武力をたのむ国は自滅するよ」と。
その信念で一致結束したウクライナへのサポートを関係者に求めたい。
三島由紀夫作品「美しい星」の作風に真似て
今を戯画的に記してみた。



あんまりとりあげられては無かった。
失敗作の世評ある「美しい星」はランキングにも入っていなかったが自分の心の中では、今日的作品だと思っている。
スペインの哲人オルテガに相通ずる風刺が効いている。




